ワルトシュタイン 聴き比べ

2010年01月26日 17:36

CDラックを整理した。整理すると思いがけない掘り出し物が出てくる事がよくある。大掃除で、畳の下に敷いた新聞紙の記事が面白いのと同じだろう。もっとも、近年は大掃除の習慣が薄れてしまったから、若い人には何の事やら判らないかも知れないが。

その中に先年引退したブレンデルの6枚組のセットがあった。1960年代のヴァンガード録音からのコンピレーションだが、強打でも音が濁らず心地よいタッチで弾きまくってくれる。このセットにはベートーヴェンが入っていない。ブレンデルを知ったのは、ベートーヴェンの作品番号の付いていないピアノ曲ばかり集めたVOXのセットだったので不思議に思った。ヴァンガードへの録音が無かっただけで、後年別レーベルに入れていた。デジタル録音の全集もあったが、フィリップスのDUOシリーズで出ている1970年代の旧録音の組み物を2組買った。


wald-brendel.jpg
28~32番の入ったセットはデッカ録音で、有名曲が入ったこちらはフィリップス録音だった。同時期に複数のレーベルに跨って全集を録音していた。演奏スタイルは先のヴァンガードと同じで、重くならずに軽快に弾ききっている。第1楽章は出だしから曲芸のような早いパッセージが続くが、コロコロと心地よく指が回る。そして強打で決める箇所はキッチリと決める。ただ録音は古いヴァンガードの方が良かった。10年後の録音なのだが、オーバーを2枚も重ね着したような厚ぼったい音で、ブレンデルの澄んだタッチと合っていないように思う。


wald-pollini.jpg
こういう技巧的な曲となればポリーニは外せない。聞き比べてみることにした。
ポリーニのベートーヴェン・ピアノソナタ全集の録音が中々完了しない。最初期の31番や32番はアナログ録音のままである。それなのにこの21番ワルトシュタインはデジタルで2回も録音している。2度、3度と全集録音する人も居るというのに、ポリーニは死ぬまでに完成させる気があるのだろうか。気まぐれな所までも師のミケランジェリの跡を継いでいる。
快刀乱麻を断つという形容にピッタリの演奏だ。鬼人の如き指捌きで一点の濁りもなく弾ききってしまう。録音もデジタルらしい切れの良い音に仕上がっている。第1楽章の演奏時間は、ブレンデルの10分40秒に対して9分59秒。タイム通りのスピードで演奏しているようだ。



wald-pollinin2.jpg
ポリーニは1988年に続いて1997年に再びワルトシュタインを録音した。第1楽章だけ比べれば演奏スタイルに特段の差はない。時間も9分59秒で全く同じ。録音には差がある。音の響きが豊かになっている。旧録音がキレだけなのに対して新録音はキレもコクも在るという所だろうか。録音の差で演奏の印象がガラリと変わる。スケールが大きくなり、巨匠の風格を感じる。しかもテクニックの衰えは全くなく、高域でキラキラ光るタッチは旧盤の輝きを失っていない。


wald-gulda.jpg
グルダはどうだろうか。ピアノ協奏曲とセットになったボックスがある。
驚いた事にポリーニより更に早かった。演奏時間は9分26秒と記載されている。確かにこのテンポで弾けば、こんなタイムも宜なるかな。無茶苦茶早いけれどグルダらしい優しい音は全く失われていない。こんな事があるのだろうか。
ピアノ協奏曲はDECCAだけれど、ソナタ全集の方はAMADEO録音だった。1968年の録音だがブレンデルより良い。デジタルのポリーニに比べてもアナログ特有の濁りが少し乗っているだけだ。マイナーレーベルに名盤あり。



wald-backhaus.jpg wald-backhaus2.jpg
バックハウスのテンペストには2種類ある。モノラル盤を入れると3種類になるが、こちらの方は処分してしまった。左がステレオで再録音した全集で1960年の録音。右は1969年の「最後の演奏会」のライブ録音であるバックハウスは鍵盤の獅子王と呼ばれ、ケンプとドイツ系ピアニストの人気を2分した。全集盤では第1楽章が8分47秒となっているけれども、聴いてみると4人の中では最もテンポが遅い。省略があるのだろう。ベートーヴェンのピアノソナタと言えば真っ先に挙げられた演奏だったが、先の3人に比べると地味な演奏で食指が伸びない。

ライブ盤も基本的には同じスタイルだが11分18秒となっており、この位のテンポだと判る。
この録音は学生時代に金持ちの友人に聴かせて貰った事がある。安い方のモノラル盤でやっとこさピアノソナタの全曲を聴いたが、スペシャル盤として通常のステレオより高い2300円で発売されたこちらのレコードにはとても手が出なかった。
プログラムはワルトシュタインから始まる。御歳85才、さすがにミスタッチが散見され、全集盤に比べても力強さで劣る。この日のプログラムではモーツァルトのピアノソナタ第11番「トルコ行進曲」が滋味があって好きだった。
LPでは途中で「少し休ませてください」というバックハウスの言葉が入っていたと記憶しているが、CDではカットされていた。
LPで聴いたのは6月26日のコンサートだけだったと記憶しているが、このCDには6月28日の分も納められている。しかし通常の半分の時間しか収録されていない。途中で心臓発作を起こして後半がキャンセルになった。そしてコンサートの一週間後帰らぬ人となった。死ぬ一週間前までワルトシュタインを弾けたピアニストは空前絶後だ。



wald-kempf.jpg
さて、バックハウスのライバル、ケンプだが、LPがあるので追加する。
演奏時間はバックハウスとほぼ同じ8分台。3曲入っている内の2曲目なのでA面とB面に跨っている。LPでは音質面から片面30分以内に納められている。1曲目はテンペストで22~3分ある。ケンプのテンポも早くはないから普通にやると30分を大きくオーバーしてしまう。そこで繰り返しを省略する等して短縮したのだろう。バックハウスの全集もレコード枚数が決められていて、曲の順番をアレンジしても入りきれない為には短縮版を使ったのではないだろうか。

ケンプはテクニックでバックハウスに劣ると言われていた。1964年の3度目の全集版でケンプも70才近いが、わざとゆっくり弾いているようなところは無い。ただ音の強弱の幅が小さくて、テンポの揺れも少ない。バッハを演奏する時の奏法に似ている。ダイナミックに弾かない為に、技巧云々を言われたのだろうか。


まだルプーやホロヴィッツが残っているが、我が家のワルトシュタインはトップがグルダで、2位がポリーニの新盤というのは動かないだろう。



関連記事


コメント

    コメントの投稿

    (コメント編集・削除に必要)
    (管理者にだけ表示を許可する)

    トラックバック

    この記事のトラックバックURL
    http://fugaku2.blog74.fc2.com/tb.php/1081-f6e456e2
    この記事へのトラックバック