「幻想」交響曲聴き比べ~「クラシックは死なない」シリーズ

2010年08月12日 17:14

指揮/オーケストラ第1楽章第2楽章第3楽章第4楽章第5楽章
ミュンシュ/パリ管(発足ライヴ)13:136:1712:494:108:51
ミュンシュ/パリ管(LP)13:476:1414:484:299:46
ミュンシュ/ボストン13:236:1213:564:308:39
シモノフ/スロヴェニア15:366:3119:544:5511:42
パイタ/ロンドン12:525:5015:524:049:46
クーベリック/バイエルン15:116:2917:004:5410:34
ケーゲル/ドレスデン17:026:3518:184:4910:43
マルケヴィッチ/ラムルー14:156:0815:584:4811:03
クルィタンス/パリ音楽院(東京ライヴ)13:226:3215:294:298:59
カラヤン/ベルリン14:226:1416:404:3310:47
アンセルメ/スイス・ロマンド13:376:0716:025:0210:13
ストコフスキー/ニューフィル(LP)14:036:1817:244:1310:24
マゼール/クリーブランド(LP)12:416:0016:304:029:22
ワルター/パリ音楽院12:536:2915:054:138:56


放送録音・録画を除いたベルリオーズの幻想交響曲は全部で14種類あった。
有名曲の割りには意外と少なかった。
楽章毎の演奏時間を比較してみると、奇数楽章にバラツキが大きい。
第1楽章で最も遅いのはケーゲルだが、第3、第5楽章ではシモノフに逆転されている。
快速型はミュンシュで、3種類有る中でもパリ管の発足ライブの第3楽章12:49は最速だ。最も遅いシモノフは19:54もかけている。他にパイタ、クリュイタンス、マゼールが早いが、意外にもワルターが快速型に属している。1939年のSP録音だが、戦後の好々爺然としたコロンビア交響楽団の録音と同じ人物と思えない。
無茶をやりそうなストコフスキーは、ここでは案外まともで、第3楽章を少したっぷり目にやっているだけだ。カラヤンやマルケヴィッチのテンポが標準的(演奏は別として)で、ライヴのクーベリックはそれより少しゆっくり目にやっている。これらは聴いた印象とも一致している。


さて、この中で「クラシックは死なない」シリーズで取り上げられているのは、ミュンシュ/パリ管発足ライブ、シモノフ、パイタ、クーベリックの4種で、ケーゲルは直接取り上げられていないが、各巻で折に触れて取り上げられている指揮者なので含める。

fantasy-munch2s.jpg
[ALTUS ALT182]
「ベルリオーズ『幻想交響曲』ドビュッシー『海』ミュンシュ&パリ管弦楽団(1967)」
パリ管とのスタジオ録音をした一ヶ月後、初めて聴衆の前で演奏した記念碑的ライブ。

第3作「やっぱりクラシックは死なない」: 掛け値なしに全員が命がけ

これまでミュンシュ/パリ管が正統的な演奏ではベストだと思っていた。しかしミュンシュのライブは予想の範囲を上回る凄さだった。

普通は緩徐楽章でゆったりする第3楽章だが、ミュンシュは1月前の録音より2分も速いペースで突っかける。丁度中間辺りにテンポを上げて盛り上げる処がある。急にテンポを上げるミュンシュの棒にティンパニが必死になって食らいついていく。一瞬たりとも息が抜けない。緊張感が更に高まって一気に絞首台へと突き進んでいく。オケを叱咤するミュンシュの叫び声が何度も聞こえる。最終楽章に入るとアッチェレランドして一気呵成にラストに向かう。10年前のボストン響より僅かに遅いが、スタジオ録音より1分早い業界最速で締めくくる。

一度引退した高齢者がこんな演奏を続ければ身が保たない。翌1968年、米国演奏旅行中に77才の生涯を終えた。
命がけの演奏は、文句なしの大アタリ


fantasy- simonovs
[RMS 10005]
「ベルリオーズ/幻想交響曲 ユーリー・シモノフ/スロヴェニア・フィルハーモニー管弦楽団」


第2作「それでもクラシックは死なない」: 通常15、6分の第2楽章をシモノフは20分かけてまるで未練がましい男の心を形容するかのようにネチネチネチネチと表現していく。(中略)間違いなく数ある幻想のなかでもトップクラスの名演・迷演。そしてシモノフにとっても最高のライヴだっただろう。終わってから拍手はやまない。絶対お薦め。

ピッチャーは持ち球にスピードボールが無くても、より遅い球を見せることによって、勝負球を速く見せる。シモノフの第3楽章は遅いだけではなくて、非常に静かで全く印象に残らない。第3楽章を「見せ球」にする事によって、速くない第4楽章が速くて、かつ大きな音で鳴っているように聞こえる。それに続く最終楽章も業界最遅なのだけれども、遅いとは感じなくて、壮麗な音楽が鳴っているように聞こえてしまう。シモノフは知能犯だ。



fantasy-paitas.jpg
[LODIA LO-CD777]
「ベルリオーズ/幻想交響曲 パイタ&ロンドン交響楽団」

第1作「クラシックは死なない」: ヴェルディの「レクイエム」同様、阿鼻叫喚の地獄絵図が再現したくてやったのが一目瞭然。終わってもしばらくはこの世に帰ってこられない。

パイタがACCディスク大賞を取ったので日本で不思議がられたという。チェロ、コントラバス、ティンパニの中低音帯域が異常に分厚く録音されている。金管は吼えてもキンキンしない。デッカのフェイズ4録音技術が、一本調子になりがちな音楽を下支えしているのではないだろうか。

こういう音楽は嫌いではない。


以上3枚が今回買ったCD


fantasy-kegels.jpg
[徳間 TKCC70677]
「ベルリオーズ/幻想交響曲 ケーゲル&ドレスデン・フィル (19841年)」

第1楽章は最も遅いし、第3楽章もシモノフに次ぐ遅さ、その他の楽章も最も遅いグループに属している。オケは非常に良く揃っているが、振幅が抑制されており、派手な音は絶対に出させて貰えない。パイタとは表情もテンポも正反対だ。冷たくて暗いケーゲル節「幻想」の極めつけは、第5楽章の鐘の音。日本の寺の梵鐘がゴォーンと鳴る。



fantasy-kubeliks.jpg
[ORFEO ORFEOR499991]
「ベルリオーズ/幻想交響曲 クーベリック&バイエルン放送響(1981年ライヴ)」

第1作「クラシックは死なない」: 気合入りまくりのエネルギー爆発演奏ではなく、暗く、沈潜したムードが漂う幻想。(中略)美しはあるが、その背後に何がしかの悲しみを背負った、そんな切ない演奏である。あまり世間ではいわれないが、店主はクーベリックの放つ「妖しい光」が好き。この幻想はそれを垣間みせてくれる。

「妖しい光」は見えなかったが、ケーゲルの後で聴くとゆったりとしてノーブルな「幻想」に聞こえる。



他にワルター/NBC ストコフスキー/ニューフィル オスカー・フリートが取り上げられているが、そこまで食指が伸びていない。


[補足]

ビレット14:216:2616:486:1012:09
ペトロフ14:016:0718:105:1210:12

どちらも「幻想」のピアノ独奏版だが、ペトロフは他の楽章はビレット(NAXOS 8.550725)より早いのに、第3楽章だけは遅い。聴き比べてみると、テンポが遅いだけでなくピアニシッモになっている。
シモノフの「演出」をピアノでやっている!
演出効果は素晴らしく、特に第5楽章「地獄での覚醒」の奇怪さを、無闇に強打鍵する事なく、たっぷりと弾き切っている。

petrovs.jpg
[Venezia CDVE00015]
「ニコライ・ペトロフの芸術 ムソルグスキー:展覧会の絵、ベルリオーズ:幻想交響曲(ピアノ版)他 」

ちなみにこのCDは3枚組で、幻想以外に、展覧会の絵/リストの超絶技巧練習終曲、サンサーンスのビアノ協奏曲第2番の独奏版/サンサーンスの練習曲/シューマンのパガニーニの奇想曲による6つの練習曲が入っている。リストは最も難しい初版を使っているが、どの曲も軽々と弾いてしまう。
不思議な事に「クラシックは死なない」で取り上げられていない。
いずれも「超」がつく凄い演奏が、3枚で1279円と激安価格。



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コメント

  1. かずさん | URL | -

    Re: 破格値で・・・・・

    > まほろばも、モーリスが演奏するバッハの無伴奏組曲のCDが傷んできましたので
    > 破格値で買い直しました。

    モーリス・ジャンドロンですか。渋い!

    CDは外盤と国内盤が完全に入れ替わりましたね。
    相変わらず来日記念盤で、高いCDを売りつける国内メーカーには愛想が尽きました。

  2. まほろば | URL | mQop/nM.

    破格値で・・・・・

    こんにちは。

    >いずれも「超」がつく凄い演奏が、3枚で1279円と激安価格。
    団塊の世代が小銭を出して買い求めたLP・CDが安く再販されていますね。
    還暦をむかえて、時間間的余裕ができた方々に、もう一度買ってもらう
    企画でしょうか!

    まほろばも、モーリスが演奏するバッハの無伴奏組曲のCDが傷んできましたので
    破格値で買い直しました。
    有り難いことです。
     

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