宮脇俊三「最長片道切符の旅」

2011年05月16日 15:46

今更紹介する事もない「時刻表2万キロ」に続いて書かれた、宮脇さんの代表作である。
氏の著作の中でどちらがベストワンか、甲乙付けがたい。
何十度も読み返した新潮文庫はボロボロになっている。

JR全線完乗を始めるまでは「時刻表」よりこちらの方がお気に入りだったが、実際に乗り始めてローカル線の面白さを知るようになると「時刻表」を読み返すことが多くなった。


数時間の読書の間に、北海道から九州の果てまで旅行した気にさせてくれる本は他にない。
車窓風景を思い起こしながら、それが簡潔な文章で余すところ無く描写されているのに驚く。
久しぶりに読み返して改めてその凄さを知った。


特に第1日~6日の北海道編が素晴らしい。
ルートを外れて美幸線と深名線に寄り道しているのも、他の地方では見られない。

「落石を過ぎると、遙か霧多布へと連なる断崖を一望できるところがあり、そのあたりからサルオガセのからんだ老木や立枯れが多くなる。自然の条件はまことにわるいが、荒涼とした美しさだ。」
根室から厚床の間では、晴れていてもいつの間にか海からやってきた霧に覆われてしまう。植物の生育も見るからに悪い。この異様な光景を、「荒涼」と「美しい」という相反する単語を並べて絶妙な表現をしている。


「原野と言っても波のように起伏する丘が薄暮の中に広がっていて、ときどき牛の白いまだらだけが見える。右は丈の高い雑木林の疎林で、それを通して冷たい輝きを増した月が列車といっしょに走っている。列車が速度を落とすと月もゆっくり走る。月が中空に停まって17時11分、厚床着。すっかり暗くなった。」のくだりも名文だ。
現国の問題に「列車が速度を落とすと月もゆっくり走る」と書いた著者の心情を5託で出題してみてはどうだろう。もう亡くなっているから「私は、そんな気持ちでこの文章を書いたのでは無い」と文句を言われることもない。


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