ホロヴィッツの映像

2011年07月04日 15:34

ホロヴィッツはクラシックを聞き始めた高校生の頃以来ずっと聴いているが、他とは明らかに違う音を持っているピアニストだった。

horowitzromans.jpg
久しぶりに「ホロヴィッツ・ラスト・ロマンティック」のビデオを引っ張り出して見た。
1985年にグラモフォンに移籍して、最初の録音を自宅の居間でしようという事になったらしい。
倉庫の地下で使用するピアノを弾き比べる場面から始まるが、その音の響きの凄まじい事。とても81才の老人とは思えない。いみじくもスタッフの1人が「最弱音からフォルテッシモまで、あれだけの音の幅を出せるピアニストは他にない」とホロヴィッツのピアノ演奏の本質を言い当てている。

ホロヴィッツの映像の中でもこの録画がもっとも気に入っている。スタッフや妻ワンダとのやり取りが数多くいれられていて、ホロヴィッツという超人的ピアニストに親しみを覚えさせてくれる。

本番の合間にモーツァルトのトルコ行進曲を弾く。ミスタッチがあるがスタッフは「すべの音に色がある」とヨイショする。横から夫人が「間違った音にも」とつっこむと、「完璧主義者じゃない。私はハイフェッツではないホロヴィッツだ」とやり返す。

ピアノを知らない作曲家が多い。チャイコフスキーやプラームスは駄目。ショパンはオーケストラは駄目だけだけどピアノは知っていたと曰う。その後でショパンのスケルツォ1番のラストとベートーヴェンの「熱情」を弾いてみせて、「一緒だろう。2人の間に15年しか経ってないけどね」とショパンを持ち上げる。その後「私はこの15年間何もやっていないけど」と自嘲する。カーネギーホールでの復活コンサートの後、その15年にはソニーに膨大な録音を残しているのだが、ご本人は満足していなかったという事か。

話がシューベルトの歌曲に及んでホロヴィッツが歌い出すと、夫人に下手だから止めておけと言われる。これに対して「君のお父さんだってひどかった」ときりかえす。ワンダ夫人はトスカニーニの娘だ。トスカニーニのオペラのリハ録音が残っているが、歌手のパートを酷いしゃがれ声で歌いながらオケを指揮していた。そういえばカラヤンも酷い声だった。大指揮者は大声でオケに指示を出し続けて声をつぶしてしまうのだろうか。


存在するホロヴィッツの映像を年代順に挙げると、

1.1968年「ホロヴィッツ・オン・TV」
テレビカメラの前で演奏しているジャケットで明らかなように、よく知られた放送用の録音。
You-tube動画で見る事ができるが、VHSやDVDでまとまって販売された事があるのだろうか。放送用のビデオが残っているなら、是非出して欲しい。「未公開録音」が次々出された時期があったが、人気も下火になり、再び伝説のピアニストになろうとしている。

2.1978年「ホワイトハウス・コンサート」
カーター大統領主催のプライベートなコンサートだが、一部放送された。
データベースにはあるのだがテープがない。引っ越しの際に棄ててしまったかもしれない。
「星条旗」や「カルメン変奏曲」が入っていて面白かったが、音源としては販売されていないようだ。

3.1982年「ホロヴィッツ・イン・ロンドン」
チャールズ皇太子と新婚間もないダイアナ妃が並ぶ。拍手が終わって客が着席しようとすると、ホロヴィッツが国歌を弾き出したので、皆慌てて起立する。日本で君が代を弾いたら、どうだったのだろう。

4.1983年「ホロヴィッツ・イン・東京」
「世紀のコンサート」としてNHKホールでの演奏が放送された。休憩時間のインタビューで吉田秀和が「骨董品としてもヒビが入っている。もうちょっと早く聴きたかっなあ」と言っている。これが「壊れた骨董品」として広く流布してしまった。ホロヴィッツは体調が悪くて、飲んでいた薬の副作用でフラフラだったと伝えられている。
まあ、スクリャービンの前で演奏し、ラフマニノフとは自宅の居間でよく一緒に演奏していたと言うのだから、骨董品には違いない。それに「完璧主義者」でないにしてもミスタッチが多すぎる。おまけに精気が無く、いつもの聴く人を圧倒するダイナミックな音の振幅がない。特に前半ラストのシューマン「謝肉祭」が酷かった。けれど普通の人は5万円の所をNHKに無料招待して貰っていて、いい大人がカメラの前であそこまで言うかな。生中継でなかったら絶対に電波に乗らなかった。

しかしそのおかげで3年後の1986年に「捲土重来」と再来日した。
NHKも懲りたのかTV放送はなく、場所もNHKホールから昭和女子大人見ホールに移されて、FMだけでオンエアされた。勿論エアチェック。
スカルラッティ、モーツァルト、ウフマニノフ、シューベルト等の手慣れた作品を並べ、苦手なシューマンはアラベスクだけ、ショパンもポロネーズは止めてマズルカとスケルツォ1番に変えた。プログラムとしては前回ほどの面白味はないが、ホロヴィッツは蘇った。
そして吉田秀和は掌をかえしたような絶賛の評を書いた。特定のコンサート限定の評なら誰でも書ける。現在御歳97歳で現役。「骨董品の上に老害」になって来てはしないか。


それ以降では
5.1985年「ラスト・ロマンティック」

6.1986年「イン・モスクワ」

7.1987年「イン・ウィーン」
を録画してある。

これらはグラモフォンからCDとして発売されている。
「ホロヴィッツ/コンプリート・レコーディングス・オン・DG」という6枚組のCDには「ホロヴィッツ・アット・ホーム」というアルバムが1986年と1988年の録音となっている。この映像やベルリンあるいはハンブルグでの最後のコンサートが映像で存在するかも知れないが、見ていない。



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