井本稔先生の事

2011年10月21日 15:19

曲がりなりにも高分子化学でメシを食えたのは先生のお陰である。
と言ってもお目にかかった事はないし、書面でのやりとりも無い。まして大阪市立大の先生の講義を受けたことはない。

「有機電子論」
この本が、教えようという気のない教養部の有機化学の講義に興味が持てず、医学部でも受け直そうかと考えていた私を救ってくれた。

この本の思想を一言で言えば、原子を粒子として扱う高校の化学から電子雲という概念へ転換し、その電子雲の分布状態から反応を予測するという事だろうか。直観的でとっつき易かった。

大学3年になって、量子化学演習で福井謙一先生のフロンティア電子論(当時は既に工学部長で、実際の講義は一番弟子の米沢貞次郎先生だった。初めて教室に来た人は、大抵禿茶瓶のこの人を福井先生と間違えた)の講義を受けたが、電子雲の濃い(密度の高い)サイトで反応が起こりやすいという、有機電子論を数値化したキャラクタリゼーションに過ぎないではないかと思った。これがノーベル賞になるとは思ってもみなかった。

薬大生の姪が、有機化学の授業について行けないというので、この本を推薦してみようと思ったが手元にない。
図書館で借りて読んでみたが、どうも記憶と違う。奥付を見ると第4版になっている。序によると版によって内容が大幅に変わっている。第2版は1971年だから私が教養の時はまだ出版されていない。1961年の第一版だったようだ。
幸い図書館にあったので、共立全書の懐かしい装丁に再会する事ができた。この本は1975年刊の増補55刷となっていた。最終何刷まで出たのか判らないが、第2版が出た後も人気があって読み継がれていたようだ。

井本稔先生は1908年生まれだから、1990年の第4版発刊時は既に82歳!!。それまでほぼ10年毎に版を改め、内容を刷新しておられる。例えば第1版では全く出てこなかった分子軌道論の説明が版を重ねる事に多くなり、第4版では一重結合から直ぐに「分子軌道論」が出てくる。反対に分光化学等は割愛されていった。ソロモン等の新しい有機化学の教科書との兼ね合いもあったかもしれないが、先生の教育者としての良心と高い志が偲ばれる。

先週届いた東京化学同人の2012年図書目録によると、井本先生の有機電子論第4版はモリソン・ボイドやマクマリーと肩を並べて現役である。
「有機電子論解説」-有機化学の基礎-第4版 A5版 408ページ 定価3675円。

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