あいつの遺書

2015年01月02日 08:42

12月31日、23時59分という昨年ギリギリの時間に、予約投稿が、あいつのHP「飛乃剣也の執筆城」の中のブログ「雑記帳」にアップされていた。
平滑筋肉腫という病気を説明するのが面倒だったのか、文章の勢いをそがせないという配慮だったのか、平滑筋肉腫では無くて一般的な「がん」としている。





『以下、予約投稿の文章となります。(13/07/12)

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 この記事がアップされているということは、私はもうこの世にいないということでしょう。

 ……。

 やー! 一回書いてみたかったんだよねー! この書き出しで!
 ほら、ミステリーとかでよくあるじゃないですか。アレ最初に見たときから、「自分が死ぬ時は絶対にこの文面で始めてやる」って心に誓ってました(笑)。
 
 ま、そんな感じで飛乃剣弥はがんで死にました。


 んーむ、実に良い人生だったですよ。
 起伏ばっかりで平坦な道など殆ど無かったように思います。それだけ退屈しなかったということなんで、私は大変恵まれておりました。
 特に執筆活動に出会えたということが、一番大きかったような気がします。
 実際に書き始めたのが、中学くらいの時でしたから、そこからカウントすると執筆歴は相当長くなりますね。最初は原稿用紙にきったない字で手書きしてましたよー。
 ただ、「人に読んでもらう」ということを意識して書き出したのが大学くらいからなので、自分でも成長を感じられたのはそのあたりからだったかなー?
 で、社会人になってラノベ研の皆様と出会い、別れ、仕事に没頭し、突然がんになり、「じゃーゆっくり、また小説でも書きますか」と思っていたら、「残念あなたは死んでしまいました」のテロップが。
 うーん、最後まで激動だったなぁ。

 でもま、やり残したことはほぼ皆無ですよ。
 そりゃあ作品を書いてる途中で死んだから、心残りっちゃあ心残りですが、一つ仕上げればまた次を書き始めるからね。丁度書き上げたところで死ぬなんて芸当は、宝くじで四等あてるくらいに難しいですわ(びみょ~)。
 執筆の面白さは、やはり登場人物との対話でしたね。彼(彼女)がその時本当にしたいと思っていることは何なんだと問いかけ続けながら書き進めることで、書いてる私もまるで読み手になったかのような感覚になれました。だからまぁ、プロット通りに進むことはまず無かったんですが、逆にプロット通りに進むような小説ばかりだったら、私はとっくに書き飽きていたかもしれません。



 あとこのがんという病気に関してですが、「どうして私が」と思ったことは一度もありません。「まぁ妥当な線だろ」か「ようやく来たか」のどちらかでした(ぇ)。
 まぁ常々、「人生は太く短く」と思ってました。が、私のこの無駄に健康な体はどうだ。どれだけゲームしても視力は下がらないし、暴飲暴食しても一晩寝れば回復する。いや、いらんだろ、私には。もっとこういう体が必要な人間が他にいるんじゃないのか。
 いつもそんなことを考えてました。
 なので臓器提供意思カードでは、すべての臓器を提供すると宣言しました。
 で、さらに思ってたんですよ。体の不自由な人をテレビやネットで見るたびに。
「俺の体をやろう」「お前の代わりに俺が背負ってやる」
 って。特に子供がなってるのを見ると心が痛みました。まだ沢山やりたい事がやるだろうにって
 なので今回のがんは、“どこかで誰かがなるはずだったのを、私が肩代わりしたんだ”と勝手に思っています。いやー、妄想もここまでいくと国宝モンでしょ?(笑)
 そんなわけで、私は世界のどこかにいる幼女のために犠牲となったのでした。
 最後の最後までバカばっかりでしたが、実に楽しかった。

 親とも沢山会話しましたよー。普通に健康生活送ってたら、年に二、三日程度でしたが、がんになってからはその何十倍もの密度で。特に母親とは色々話せてよかったですね。ふと思い返してみると、あんまり思い出が無かったんですよね。祖父母との思い出は多いんですが、意外と母親とはね。まぁ長男の宿命かもしれません。でも最後の最後でそれが作れてよかったですよ。


 えー、長くなりましたがこのあたりでお別れしたいと思います。
 恐らく人類がどうあがいても解き明かせないであろう『死後の世界』とやらを堪能しようと思います。
 HPはそのまま放置となりますのでご了承ください。気が向いたら読んでいただけると嬉しいです。
 ではでは、このあたりで。
 本当に、バイバーイ( ゚Д゚)ノシ。』





これで終わりかと思ったら、長い改行の後で






『って、思うじゃん?
 残念!
 これをここまで読んでしまった貴方。
 残念ながら、私は貴方のすぐそばまで行かなくてはならなくなりました。「十メートル・ルール」が適応されましたのでもう逃げられません。執筆でもしようものなら、常にダメ出しを頭の中に送りこむので覚悟してください。
 どうも、こんにちは。よろしくお願いします。

 飛乃剣弥』






書かれたのは、2013/07/12で、休職に入った直後で骨転移が発見され、パゾパニブを始める前だった。
自覚症状はまだ無く、執筆活動に使える「余生」はまだたっぷりあると考えていたのだろうか。
元々素顔よりハイテンションで書かれていたブログだが、更に前向きで気負いの無い文章になっている。


小説執筆がこれぼどまでに、これほどまでに人生に大きなウエイトを占めていたとは。
病気になるまでは、一つ年下の弟も、小説を書いていたという事さえ知らなかった。
治癒する可能性が無くなってからも、未完となった「廃屋オタクは動じなかった」を赤のペンで常に推敲していた。

ライトノベル作法研究所というネット上の同人誌?のような所に属していたようで、
「アシェリー様のお通りだ!」「ちょっとだけ成仏、してくれますか?」「ロスト・チルドレン」「未完の魂、死の予定表」の4つの長編小説が掲載されている。
自分では「未完の魂、死の予定表」という、クリスティの「そして誰も居なくなった」のような書き出しの作品が最高だ傑作だと言っていた。
東京怪談という短編集ではお題を頂戴して、先方のキャラクターで書くという凝った事もやっている。


全部読んでやりたいと思うのだが、つかえて中々先へ読み進められない。
感想を言ってやれないし、その返事も返ってこない。
頭の中で、あいつの笑顔を思い浮かべるだけだ。

本当に「十メートル・ルール」で、そばに来て「頭の中に」入って来て欲しいと思う。






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