投稿日:2008-05-12 Mon
戸板康二は「團十両切腹事件」で直木賞を獲得している。ミステリの数少ない直木賞だったので、講談社の文庫版で、同タイトルの短編集を買った。
戸板康二は、歌舞伎評論家という本業を持っていたので、まさかその後80編ものシリーズを書き続けていたとは知らなかった。長編も2編書いていた。この全集はその総てを網羅した物で、各巻600〜700ページものボリュームがある。創元社文庫で、昨年発刊された。
解説では、歌舞伎俳優が事件を解いていくことから、エラリー・クイーンがバーナビー・ロス名義で書いたドルリー・レーンにたとえらている。
だがそれより、全てに歌舞伎がかかわっているから、ディックフランシスの競馬シリーズをイメージした方がシリーズの性格を理解しやすい。
歌舞伎を全く知らなくても面白い。競馬に興味がなくても面白い競馬シリーズと同じである。
初めのうちは殺人事件だったが、だんだんと身の回りの事件へと変化してくる。昨今の状況を、20年以上も前から先取りしている。
日本語が「滑らか」で、宮沢俊三作品に勝るとも劣らない。「解ればいい」レベルのものが多い「専業」作家とは、一線を画している。
はんなりや、まったりがグルメ劇画で一躍ポピュラーになったが、このシリーズでは多くの古き良き日本語に巡り会える。
「むきだしの関西弁ではないが、なんどりとした云いまわしに、大阪の風土独特の色気があった」
「あのセリフが気がさすのかい。」
「こんな時に、私が気ぶっせいな思いをして、飲む酒の味がまずくなるような人間を誘って来ることなんか、決してないのを、私は知っている」
また、こんな文字の使い方もある
「ノートのとる覚え書きが見る見るうちに殖えてゆくほど、ゆたかな芸談を数多く聞いた」
やっと2冊読み終えたところだが、あと3冊が楽しみである。
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